『人間失格』part8 (約1650字)

人間失格 太宰治

作者:太宰治
出版:青空文庫

この本を読み終えて心に残った疑問は、葉蔵が人間らしく生きていくのに欠けていたものは、一体何だったのかという疑問です。
裕福な家庭で、たくさんの兄や姉を持つ末っ子に生まれた大庭葉蔵。幸せな生い立ちのはずの彼ですが、幼い頃から人間に恐怖感を抱いていました。葉蔵は、人間が信用出来ず、何に対しても憶病でした。他人に本当の自分の姿を見せることが出来ない彼は、おどけることで、本当の自分を隠そうしました。そしてそれは、自分の家族に対してでさえもだったのです。
私にとって、家族とは、生きてゆく中でずっと一緒にいる大切な存在です。おそらく、ほとんどの人はそうだと思います。しかし、彼にとっては違いました。何を考えているのかわからないのに身近にいる、最も恐ろしい人間という存在でしかなかったのです。
なぜ、家族に対してさえも恐怖を覚えるのでしょうか。私はそれがとても不思議に思えました。そして、その原因の一つは父親ではないかと考えました。葉蔵の父親はとても忙しい人で、月の大半は東京に出ていてほとんど家にいません。それに、とても厳しい人でした。葉蔵はその父親から愛をもらったと考えることがありませんでした。もちろん、父親に全く愛がなかったというわけではありません。しかし、人よりも「愛」というものに敏感な葉蔵にとって、「父親の愛」は薄く感じられたのかもしれません。もし、葉蔵が父親から愛情を多く感じて育ったとしたら、彼は違う生き方をしたのではないかと考えました。
衣食住が満足で、生活が安定しているからといって、それが幸せとは限りません。自分をわかってくれている人がいる安心感が大切だと思います。葉蔵の家庭はお金持ちでしたが、彼の心は満たされていませんでした。今の葉蔵は自分をおどけさせることで、周りに合わせようとしています。でも、これで幸せになれるはずがないと思いました。
でも、私も葉蔵のように、本当の心を見せないように、自分を隠してしまうことがあります。本当の心を他の人が見ると、嫌われてしまうのではないかと心配になることがあります。
多分これは誰にでもあることです。本当の自分をいつもに表に出している人はいないと思います。そして、全員の人を信じる人もいません。それでも、普通は、心のどこかで、本当の自分を知ってもらいたい、誰かを信じたいと思っているはずだと思います。しかし、葉蔵にはそれがありませんでした。
ずっと隠してきた本当の自分をさらけ出せる相手であるツネ子と、生まれてはじめて葉蔵は出会いました。でも、葉蔵は、そんなふうに人を愛するということに恐怖感を抱きました。葉蔵は、自分から人を愛することが出来ませんでした。彼には愛も、欲もありませんでした。何も欲しがらないで、したいと思うこともありませんでした。
欲は、生きていく中で必要なことだと私は思います。もちろん、欲に走りすぎるとだめな人間になってしまいます。でも、欲がないと、目標が生まれてきません。欲がなかった葉蔵は、死にたいとも生きたいとも思っていません。だから、自分が寂しいからといって、ツネ子と一緒に死のうと考えました。今まで作り上げていったものを全部台無しにしてしまう死が、すんなり出来てしまうほど、生きることに欲がありませんでした。
父親から愛をもらえず、愛するということが理解出来なかった葉蔵。そして、人間に恐怖感を抱いて、人を信用出来なくなります。葉蔵を見ていると、まるで自分を見ているように感じることがありました。彼ほどひどくはありませんが、私も自分は弱いなと思うことがあります。自分に自信が持てず、他の人がどう思うかを気にする自分が、私は嫌いです。今のままでは、葉蔵のようになってしまいます。もっと自分に自信を持って、自分の意見を強く持とうと思いました。
葉蔵には、人間として生きるのに大切な、愛と欲がありませんでした。この二つをあやつるのは、とても難しいと感じました。でも、「私らしく」生きていくために、しっかりと向き合っていきたいです。

引用元:[Unknown-CO]
本の詳細:[人間失格]

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