『海賊とよばれた男』part3 (約2200字)

メディア化作品(映画) 海賊と呼ばれた男(講談社)

作者:百田 尚樹
ツイッター:[https://twitter.com/hyakutanaoki?lang=ja]
出版:講談社

 国立高等専門学校機構は国際協力機構(JICAJapan International Cooperation Agency)と協働で、本年10月からベトナム・ホーチミン工業大学・タインホア分校で石油人材養成に 関するプロジェクトを開始します。タインホア州はハノイから約300Km 離れた場所にあり、良質な油田をもっています。ベトナムは良質な原油が出ますが、大部分を輸出しており、逆に精製された石油製品を輸入し、慢性的に貿易収支が赤字となっています。これを解消するためにベトナム政府は、新たに自国で原油から石油製品をつくりだす、大規模なコン ビナートの建設を進めることにしました。高性能なコンビナートを継続的かつ安全に稼働させていくには、工学に裏打ちされた技術者が必要となります。そこでベトナム政府は日本政府(外務省)に協力を要請し、このたび外務省が管轄していますJICA から高専機構に対し依頼がありました。高専機構では石油精製技術に直接関係があります、全国の化学系教員を対象にタインホア分校へ派遣します。当面は秋田高専の物質化学工学科を中心にして、カウンターパート(C/P:ホーチミン工科大学の教員)の技術教育や実験・実習支援などを行い、また、ベトナムの先生方を全国の高専に派遣して、各種の技術指導を実施していくことになっています。明石高専は、昨年度、ホーチミン市工業大学の土木系学科と包括協定を締結しており、今後、都市システム工学科を中心に学術交流を進めます。JICA石油人材養成プロジェクトに関しては、C/P受入れなど側面から支援をしていく予定です。

 さて前置きが少し長くなりました。今回、取りあげた本は「海賊と呼ばれた男」です。本書は石油とともに歩んできた男の物語です。モデルとなった主人公は、題名のない音楽会やアポロマークで良く知られた出光興産を一代でつくりあげた出光佐三氏です。私自身は「海賊」という刺激的な名前がついていましたので、原油を求めて海外に進出し波瀾万丈の人生を送っていたと思っていました。主人公は北九州の片田舎から石油販売で身を立て、戦前•戦後をダイナミックに生き抜き、石油精製から販売までを一貫して行う日本を代表する大企業に育てあげました。「海賊」という名前はユニークな発想により、関門海峡で行った石油販売にからんでつけられました。

 先の東日本大震災(3・11)では津波がもたらす甚大な被害とともに、自然のもつ脅威 を目の当たりにしました。なかでも福島の原子力発電所の津波災害は、私たちに対し多くの課題を突きつけるものとなりました。江戸から明治になり我が国は西洋の文明を導入し、猛烈なスピードで工業化を進めてきました。工業製品をつくりだすためにはエネルギーが必要不可欠となります。時代の流れとともに産業構造も変化し、多様な企業が現れ、人や物を担う交通手段も変化し多量のエネルギーを消費するようになってきます。当時、石炭以外の化石燃料をほとんど産出しない我が国では、エネルギー問題が浮上してくるのは必然的なものでした。物語の主人公は石炭火力によるエネルギー利用が全盛のとき、いち早く石油の重要性を認識し獅子奮迅の努力をします。とりわけ小説の後半部分は、戦後の混乱期にあっても従業員を非常に大切にしつつ、石油をめぐる利権で GHQ や役所の権威に屈せず対峙(たいじ)したこと、我が国の窮乏を救った日章丸(石油タンカー)にまつわる話など、幾多の苦難をものともせず臨んだ主人公の一徹した姿は清々しささえ感じます。物語のあらすじは以上ですが、最後に皆さんと一緒にエネルギー問題について考えていきたいと思います。現在、世界各国では産業活動や社会生活を維持するための基盤の一つとして、電気エネルギーが使われています。私たちは電気エネルギーをはじめ日々莫大なエネルギーを消費することで生活ができています。ご承知のように電気を発生する手段としては、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)、原子力、再生可能資源(水力・太陽光・風力・地熱・波力・バイオ)があります。また、電気エネルギーへ変換するため使用される化石燃料、原子力、再生可能エネルギーの割合は、我が国で、それぞれ凡そ 66.4%、23.6%、10%(2010 年当時)となっており、燃料の80%強が輸入に頼っています。福島での災害の後、原子力エネルギーに関しては人々の意識にも差が出てきているところですが、これを境にしてエネルギー発生効率を向上させるための新規技術の開発等が進められています。しかしながら、化石燃料のうち石炭以外は21世紀中に枯渇するとの報告がなされ、また燃焼によるCO2問題もあり、再生可能エネルギーは安定かつ大規模な発電には不向きといわれています。なかでも人類が創り出した原子力によるエネルギー生成は、重水素を用いた将来のエネルギー源である核融合炉の実現と相まって、世界中の研究者や技術者が協働で従前以上に、おおくの叡智を結集して進めていくことが肝要となります。

 工学と技術を専攻している私たちは、こうした多様で複雑な問題を真摯に受け止め解決を図っていく必要がありますし、さらに自然と共に生かされているという「共生」を念頭に入れることも重要となってきます。明石高専では「共生」という言葉を教育理念としています。エネルギーや環境問題など、それらを左右する工学と技術(技学)は、21世紀を私たちが生きていくために極めて大切なものです。是非、皆さんには学習のあいまに「共生」のもつ意味を、いま一度考えていただければ幸いです。

引用元:[図書館報]
本の詳細:[
海賊とよばれた男]

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