『君の膵臓をたべたい』part7 (約2000字)

君の膵臓をたべたい(双葉社)

作者:住野よる
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出版:双葉社

人は時々「明日でいいか」と用事を後回しにしたり、相手に言いたいことをためらって伝えられなかったりする。そんな日常や人間関係をなんとなくやり過ごしている。しかし、そうすることは、自分自身に大きな後悔を招きかねないということを、この本を読んで知った。そして、誰にでも必ず明日が来るとは限らない、ということも。

主人公・春樹は「人に興味がない」高校生。不治の病に罹って余命幾許もない同級生・桜良と接していくうちに心を開いていく。この二人の間に恋愛感情はなかったが、お互いを大切に思う友人同士になって、焼き肉を食べに行ったり遠出をしたり、家に行き来したりするようになっていた。二人は、桜良の退院後に遊ぶ約束をしていた。その待ち合わせ場所に向かう途中、桜良は通り魔に殺される。「誰にでも必ず明日が来るとは限らない」という衝撃が春樹を突然襲う。性別も年齢も、残された命の短さも関係なく、明日のこと、次の瞬間のことを誰も知ることができない。だから、いつ終わるか分からないという時間の中で私たちは生きている。春樹は桜良との約束を守れないまま、彼女と突然の永遠の別れをする。それまでは、桜良が病気で死んでしまうと思い込んでいた。だからこそ、彼の後悔は大きかった。春樹の「まだ時間のある僕の明日は分からないけれど、もう時間のない彼女の明日は約束されていると思っていた」という言葉に、私はとても共感していた。読み進める中で、私も春樹が言うように思い込んでいた。彼はこの理屈を「甘え」だと言った。「馬鹿げた」理屈だと言った。突然の桜良の死という展開に驚いた私も、春樹と同じように、まだ時間はあるという根拠のない理屈を信じていたのかもしれない。
 春樹が桜良に「『君にとって、生きるっていうのは、どういうこと?』」と尋ねた答えが、「『きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」』だった。私はこの言葉に、一瞬肩から腕にかけて強張りを覚えたようになり、ついでその強張りが解かれていくような温かみを感じた。私たちは限られた時間の中で、決して独りで生きてはいないのだ。「人に興味がない」春樹はそれまでは「生きて」いなかったことになる。自分という殻に引きこもって、他人に興味を持つことも持たれることも避けてきた。そんな彼を桜良が変えた。だから、春樹は彼女に感謝し、桜良は彼の人生で「初めて必要としてる人間」になったのだ。彼女に人との繋がりを教えてもらい、一番の繋がりができたからこそ、彼女の死は、春樹に深くて重い悲しみを与えたのだと思う。他人との関わりは、その人の人生に潤いを与える。それはプラスのものであってもマイナスのものであっても、必ずその人の糧になる。友人たちとの関わりは、日々私の一部になっている。だから、友人たちは私にとってかけがえのない存在であるし、彼らにとっても私がそうなら、大変嬉しいことだ。友人と言葉を交わし、触れ合い、競い磨き合う。この充実感は独りでは絶対に味わえない。だから、他人との関わりは、私たちには必要であり、「生きる」ことなのだと思う。だから、いつ訪れるか分からない別れの瞬間まで、なにひとつ後悔を残さないように日々を過ごしていかなければ、とてももったいないのだ。どうせ生きていくのなら、少しでも心は軽い方がいい。もっとも、他人との関わりが心を軽くしてくれるだろうし、空いてしまった隙間はまた誰かが埋めてくれる、そんな繋がりが欲しいと思う。
また、春樹にはもう一つ後悔があった。彼は再会する直前に、膵臓を患っている桜良への想いを「君の膵臓がたべたい」とメールで伝えていた。桜良に会ってからそのメールの意味について話したかったのに、その場所に向かう途中で、彼女は通り魔に遭ってしまうのだ。伝えたい相手が大切な存在であればあるほど、想いを伝えられなかったという事実が心の重しとして、ずっと胸の中に残ったままになってしまう。決定的な別れではなくても、タイミングを逃してしまったり、羞恥心が邪魔をして素直になれなかったりして、伝えられなかった後悔が残ってしまうこともある。春樹は桜良との思い出を回想するうちに大声で泣き崩れてしまう。彼の胸中を察すると、胸が痛くなった。彼のように悲しい思いは、できれば私はしたくない。しかし、誰にでも降りかかってくる可能性があることならば、彼のように声を上げ泣き叫ぶほど後悔する前に、その後悔に傷ついてしまう前に、私たちは「今、自分がしなければならないことをして、伝えたい気持ちを大切な相手に余すことなく伝えたい」と思う。その人の死を一度は受け入れられず取り乱してしまっても、その人のために涙を枯らすことができるような「唯一無二の存在」に、これから先の人生で出会いたいと心から思う。そのためには、私たちは「生きる」ことをやめてはいけないのだ。

引用元:[
第61回青少年読書感想文岡山県コンクール高等学校の部]
本の詳細:[君の膵臓をたべたい]

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