『ホームレス中学生』part1 (約1000字)

ホームレス中学生

作者:田村裕
出版:幻冬舎

 

 『ホームレス中学生』は、読み終えていろいろなことを考えました。父親は、親戚に不幸があったさいに「香典を貸してくれ」と執拗に頼んだことがあり、そこから、親戚とはぎくしゃくしていたようです。しかし、父親や親戚は頼りにできませんでしたが、同級生の両親や、学校の先生たち、近所の人々、そして、何よりも、立派な兄と姉の支えがあって、田村少年はまっすぐに育つことができたのだなと思いました。子どもが友だちを家に連れてきて、飯食わして、といって、あいよ、とばかりにごはんを食べさせてくれるのは、大阪の人情というものでしょうか。大阪というところは縁がなく、話に聞くくらいの知識しかないのですが、奥深い場所だと思いました。
『ホームレス中学生』の中で、爆笑した個所がありました。街で、フルフェイスのヘルメットをかぶった女が時速10キロくらいで原チャリを走らせ、「10キロの女」としてうわさになる場面です。自転車に追い抜かれていた、坂道にさしかかるとさらに遅くなる、など、うわさはどんどんひろまっていくのですが、正体は、田村少年の姉でした。姉が友人から譲り受けた原チャリを田村少年が横転して壊してしまい、修理するお金がないので10キロほどのスピードしかでないまま走っていたのでした。しかし、夏に、姉がフルフェイスから半ヘルに変えると、正体がばれて、「10キロの女、たむちんのお姉ちゃんやんけ!」と爆笑されていました。
田村少年は自分が壊したといううしろめたさもあり、姉には「10キロの女」の話をできず、姉は、自分がうわさになっていることなどまったく気が付いていないようでした。周りのことを見る余裕もなく時速10キロで前だけを見て唇をかみ締めながら走る姉の姿など、ちょっぴりせつない気もしますが、不幸とは別の次元の現象として、笑えることは笑えるのだなと、つい、思ってしまいました。
しかし、その「10キロの女」こと姉も、田村少年の母親代わりとして自分を犠牲にし、また、兄も「誰かがお金を確実に稼いでお世話になった人達に返していかなければ筋を通すことができない」と夢をあきらめていました。もちろん、本書に書いてある内容は壮絶な出来事の中のごく一部で、書くべきではないと判断したことは書いていないのでしょうが、『ホームレス中学生』を詠み終えて、兄弟3人の絆、そして、周りの人たちの人情が心に染みました。

 

引用元:[竹内みちまろのホームページ]
本の詳細:[書籍詳細: ホームレス中学生]

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