『こころ』part1 (約1550字)

こころ(新潮文庫) 夏目漱石

作者:夏目漱石
出版:
青空文庫 

 この作品を読み始めて、まず思ったのは、その文体の簡潔さである。これは、他の著名な作家にも言えることだろうが、とてもすなおな書き方をし、簡潔な言葉で的確に、読者の心をとらえようとしている。そのうえ話の筋に無理がなく、きわめて自然である。そこで、いやおうなく僕は、この作品にひきずりこまれていった。
まず「私」と「先生」との出会いから始まる。前半では、「先生」という人物自体が、全くの謎につつまれていた。そこには、人間のにおいを感じさせない何かがあった。「先生」を一種の性格破綻者のように感じもした。しかし、そこにまとわりつく何かとは、「先生」の過去であった。そして彼は、過去に大きく左右されているのだ。しかも「先生」自身、過去に対して、感傷的に生きているのではない。むしろ過去を否定できないせっぱつまった状態にあるのだ。そこまで人を追いつめるものが、果たしてあるだろうか。
中間に、「私」の父の死ぬまぎわまでの過程が描かれている。これは明らかに後半の先生の死の場面と、イメージが、だぶらされている。しかもまったくの対象的対照的に描かれている。「私」の父の死に際は、なんと人間臭く、みれんたらしいことであろうか。死を待つしかない人間は、死ぬまでに残された時間を、全くと言っていい程、汚く生きるのだ。と同時に僕には、彼の死が、とても人間らしく思えてならないのである。
後半の「先生」の死は、自殺という形で終止符を打つ。遺書によって、今までの謎の一切が明らかにされる。叔父に裏切られた憤り、友人Kを裏切った苦しみが、Kの死後、彼をさいなめるむ。叔父を侮蔑した自分が、同じ事をKに対してしてしまった。自分自身を軽蔑してしまったら、あとは何もできない。その状態に彼は、追い込まれた。しかも追い込んだのは、彼自身だった。そしてその底に流れるものは、「先生」に代表される「人間」のエゴイズムなのだ。自らの幸せを望むあまり、友人さえも軽々しく裏切ることができてしまう。自殺というもっともらしい形で、自分の過去を精算してしまう。すべてが独りよがりのように思われてならない。遺書の結句に「私は妻になんにも知らせたくないのです。」とある。これこそが、「先生」という男が、一生をつらぬいたエゴなのだ。確かに、彼は苦悩したであろう。しかし、僕は、必ずしも彼に同情はできない。できるとすれば、彼の内にある人間本来の弱さに、であろう。
僕は、読書後、妙に人間の弱さ、もろさという事が、心に残った。たとえば「自殺」にしてもそうである。この「自殺」という言葉は、今日では、あちこちから僕らの耳に入ってくる。当然、「自殺」について考えることも多い。自殺は、許されるべきではないと思う。断定的には言えないが、あまりに「自殺」というものが、美化される面があるのも確かだ。この本でも「先生」の自殺には、「私」の父の死のような汚さは感じられない。むしろ、その死に感動が、よびさまされそうな気がして、僕はゾッとする。作者自身、自殺を認めていないと思う。ともかく”死ぬ気になれば何でもできる。”という言葉は、まだまだ軽薄視軽視できないだろう。

 もう一つ、一貫して突っこめなかったのは、異性愛についてである。それは、僕が恋愛について理解していないためだろう。だからKの自殺の原因が、もう一つ合点がいかない。この問題は、しばらく据え置くしかないだろう。これからの成長が、それを教えてくれるかもしれない。
僕は、この主人公について、なぜか悲観的である。もっと、「心」の中に、すなおさを反映すべきである。と考えるのも、やはり僕の「心」なのである。「こころ」という作品から輪を広げていき、妙に、さまざまな事に「心」がゆれうごいた。「こころ」という無感動な三文字だが、決してそれ自体、無感動なものではないはずだろう。

 

引用元:[カンガルーは荒野を夢見る]
本の詳細:[こころ]

 

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