『蜘蛛の糸』part5 (約700字)

芥川龍之介 蜘蛛の糸

作者:芥川龍之介
出版:
青空文庫

カンダタの行いを、お釈迦様はお許しにならなかった。大泥棒(おおどろぼう)のカンダタがかつて小さな蜘蛛の命を救ったのを思い出され、最後に彼にあたえたチャンスだったのに。

 お釈迦様はそのとき、カンダタにどのような行いを望んでおられたのだろう。地獄に落ちて血の池でもがき苦しみ、希望も何も失いかけていたところに、すーっと差しのべられた一本の細い蜘蛛の糸。千載一遇の助けとばかりに、必死にその糸にすがりついたカンダタ。しかし、自分の後から、アリの群れのように糸をのぼってくる多くの罪人たちの姿を見つけ、「下りろ!」と叫んでしまった。

 そのとたんにプツリと切れてしまった糸は、お釈迦様の怒りの気持ちのあらわれに他ならない。でも、ちょっと思い悩んでしまう。私がカンダタだったらどうしただろう。この場合、カンダタと反対の行いは、みんなでいっしょになって上へのぼろうとすることだろう。お釈迦様がカンダタに望んでおられた行いは、そうしたものだったのだろうか。

 でも、私がカンダタであっても、そうした行いができる自信は全くない。他の罪人たちがのぼってくるのを許していたら、自分も間違いなく助からないからだ。カンダタは、何も他人を押しのけてのぼってきたわけではない。生きるか死ぬかの危急に臨み自分が助かりたいと思うのは、選択の余地のないごく当たり前の人間の気持ちだろう。それなのに、瞬時に断を下されなければならないほど許されない行いだったのだろうか。

 私には、お釈迦様がカンダタの”ふつうにある人間の素直な心”をもてあそんだとしか思えない。もっとも、この物語のお釈迦様はほんとうのお釈迦様ではない。ほんとうのお釈迦様だったら、このようなことは決してなさらないと思う。

引用元:[がんばれ凡人!]
本の詳細:[http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/92_14545.html
]

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