『桐島、部活やめるってよ』part4 (約1550字)

メディア化作品(映画) 桐島、部活やめるってよ

作者:朝井リョウ
ツイッター:[https://twitter.com/asai__ryo?lang=ja]
出版:集英社


本の題名とは思えないほどザックリしたタイトルのこの作品は、内容は驚くほど複雑だった。
 この小説の題名にもなっている「桐島」という人物、話題には上るが作中には一切出てこない。それぞれの章にそれぞれ主人公がいて、作者はそれを映していく。
バレーボール部のキャプテンである桐島だが、その桐島が部活をやめることによって各部やクラスの人々に動揺が広がり、リアル過ぎる高校生活の一部が描かれてゆく。自分も今は高校生。どこかで感じたことのある感情がこの小説の登場人物からにじみ出ていた。
ここでは「上位」「下位」の関係が残酷なまでにリアルに描かれている。
「上位」の生徒は部活の主要選手だったり、クラスでも目立つ、イケイケの生徒たち。「下位」の生徒達はクラスでは地味で「上位」の人間からバカにされるような生徒達。どちらにも属さない「中位」のような生徒もいたが、おおざっぱに分けるとこんなところだ。この「上位」「下位」の関係が残酷なまでにリアルに描かれているのだ。「あぁ~いるいるこんなやつ!!」とか「あぁ~自分にもこんな経験あるわぁ~」とか過去の記憶に突き刺さるようなエピソードが詰まっていて不思議と面白く感じてしまう。
ところで桐島という存在はいったいなんだったのだろうか?登場人物の間で語られる桐島。彼はバレー部のキャプテンで県代表に選ばれるほどの実力者。成績もかなり優秀。桐島の彼女は校内でもトップクラスに人気の女の子。それ以外は何も語られない。
しかし、彼は校内で「上位」グループの中でも一際注目を集める人物だったことが想像できる。彼の存在というものは「上位」グループにとって重要なものだったのかも知れない。あるものにとっては、「桐島の彼女である」という”自分”を証明する人物であり、あるものにとっては「桐島の親友である」という”自分”を証明する人物であり、あるものにとっては「桐島と共にプレーするチームメイトである」という”自分”を証明する人物であり・・・。「上位」グループは、桐島という人物を通して校内での”自分”を認識していたのだろうと考えられる。彼ら(上位グループ)にとっては、桐島が”「上位」グループにいた”というところがポイントだったのだ。
桐島がいなくなったことが原因で人間関係や普段の生活が破綻していったのは「上位」グループやそれらの人間と親交のあった人間だけ。一方、「下位」グループ(この映画では主に映画部)は、桐島がいなくなったことに関しては無関心。彼らにとっての目前の問題は「撮りたい映画が撮れない」ということなのだ。桐島がいないことで”自分”を見失い不安と虚無感に満ちた「上位」の人間たちの様に僕も今の学校生活から何人か仲のいい友達がいなくなったら、動揺するし不安になるし自分を見失って虚無感に満ちると思う。そうなることはまずないと思っていても、心のどこかでは不安になったりする。大事なものを無くさないように、周りを観察して相手が自分の言動でどういうリアクションをするのか、また自分はどういうリアクションをしたらいいのか。こういうことは学校生活の中で学べることの一つだと思う。
そして、この小説の隠れた主役は野球部の幽霊部員、菊池宏樹であり、部活にもほとんど顔を出さない、自分は何に情熱を向けるのか?その方向性がわからない。”自分”とは何かがわからない。そのことに気づかされた宏樹はさらなる不安に陥る。
そんな中、彼は頼みの綱である桐島に電話をするが桐島にはつながらず、彼の不安は解消されないまま終わるという、なんとも悲しい終わり方だったのだが、唯一生き方を変えようと決心し、前に進めるのは宏樹だけだろう。そういう意味では、ハッピーな終わり方だったのかもしれない。僕も少しずつ良い方向に変われるよう過ごしたいと思う。

 

※赤字部分には注意してください!

引用元:[図書館だより]
本の詳細:[
桐島、部活やめるってよ]

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