『カラフル』part4 (約1450字)

カラフル(文春文庫) メディア化作品(映画)

作者:森 絵都
出版:文春文庫


僕はもう、生きていく気力を無くしました。学校でいじめられ、その後も疎外され続けた僕にとって、家族は数少ない救いの一つでした。
しかし数日前、僕は、尊敬していた父さんは、自分のことしか考えていない利己的な人間なんだと気付き、母さんが不倫相手とホテルに行くのも見ました。兄さんは僕のことを落ちこぼれの邪魔な弟だと考えています。…もう嫌です。僕は今日でこの世を去ります。僕が死んでも、皆僕のことをすぐに忘れるのでしょうね。さようなら。自殺した「真」は、こんな遺書を残していたかもしれない。(間違っても僕の遺書ではない。)
 僕は「カラフル」という本を読んだ。主人公の「ぼく」は、生前の罪により、輪廻のサイクルから外された魂であったが、天使業界の抽選に当たり、自殺を図った少年、真の体に入り、一時的に真として生きていく過程で、自分の罪を思い出すことができれば、輪廻のサイクルに戻してもらえることになった。「ぼく」が真の体に入って間もないころ、「ぼく」は、真の記憶の中の家族の人物像を天使から知らされ、ひどい嫌悪感を覚える。しかし、「ぼく」がその人々との生活を重ねていくにつれて、その人物像は間違っていたことに気付いてくる。真の父は、恩や義理もある会社の上司が会社の失敗の責任を取り総辞職したおかげで昇進できたことに飛び上がって喜んだ。思いやりのある人間なら、気の毒がるところだが、真の父はそうではなかった。真は地味でもこつこつ頑張っている父を尊敬していたから、父に対する失望は大きかっただろう。しかし、本当は、不正を行っていた社長や重役と二年間戦い続けて、やっと会社を一新させる希望ができたことに真の父は喜んでいたのであった。やはり真の父は人を思いやることができる、正義感のある尊敬すべき人間だったのだと感じた。また、真の母は、家族を裏切るという取り返しのつかないことをしてしまったが、その後の悔やみ苦しんでいる様子や、息子(「ぼく」の魂が入っている真)に責められても、逃げることをせず向き合い、家族のことを第一に考えて行動しようとしている様子を見て、平気で人を裏切るような人物ではなかったんだな、と僕は読んでいるうちに思い直すようになった。
「ぼく」も、最初は軽蔑していた周囲の人々を、こんな風に見直していったのだろう。人間は一色ではない。誰かをいじめたくなる時もあれば、誰かを助けたくなることもある。どうしようもなく何かを壊したくなる時があれば、人や物が誕生することに感動を覚える時だってあるだろう。このようなさまざま「色」が合わさって、人というものができているのではないだろうか。沢山の種類の絵の具を全て混ぜると黒に近い色になる。あの人は黒色だ、と悪いイメージを人に抱いたとする。しかし、その黒には黄や赤などさまざまな色が含まれているかも知れないのだ。真は、「色探し」が下手な少年だったのだと僕は思う。人の中の暗色にばかり気を取られ、極めつけは、自分自身の色さえうまく探し出せず、自殺まで追い込まれた。「ぼく」の生前の罪というのは、自分を殺したこと、つまり、真イコール「ぼく」というのが、物語のおちなのだが、真に無くて、「ぼく」になってから手に入れたものは一つ、「色探しの技術」だけなのだ。真はたまたま抽選に当たったおかげでこの世に戻ってこれたが、当たらない可能性の方が高い。僕は、運の無い方なので、しっかり「色探し」して、自分や皆の暗色や明色をみつけ出していこうと思う。

 

引用元:[図書館だより]
本の詳細:[カラフル]

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