『こころ』part2 (約2250字)

こころ(新潮文庫) 夏目漱石

作者:夏目漱石
出版:青空文庫

旧千円札の肖像画でもある日本を代表する文豪、夏目漱石。恥ずかしながら私はこれまで、漱石の作品を読んだことがなかった。そこで課題としての読書感想文の提出に漱石の作品の中から、何か一冊選ぼうと思い、代表作ともいえる、この『こころ』を読んでみることにした。漱石の作品を一冊も読んだことがないと述べたが、実は、本格的な小説をこれまで一度も読んだことがない私だったのだ。
私は、初めての小説を読むにあたり、途中で挫折しないように、まず、著者の漱石に興味をもつよう、周辺知識を調べることにした。すると、漱石が小説を書くようになったのは、人間関係と病とで精神的に苦しんでいた彼を思い、友人の俳人、高浜虚子の「文章でも書けば気がまぎれるだろう」とのアドバイスからだったそうだ。それが処女作『吾輩は猫である』につながったという。つまり、文豪、夏目漱石の作家としてのスタートは、驚くことに自身の苦悩の日々に対する、単なる「気分転換」としての気楽な出発だったということだ。
しかし、その五年後、大病を患ってからの作風は、人間の心の闇をテーマとするものへと変わっていったそうだ。この『こころ』は、その後期の代表作という位置づけであるが、また漱石最大の傑作とされるものでもある。おそらく、この下調べにより「漱石に対する興味付け」をしていなければ、私はこの『こころ』という長編を、読破することはできなかったと思う。
私は、小説スタイルの今回の本を選んだおかげで、新しい読書の楽しみ方を発見できた。

その楽しみ方とは「もし私がカウンセラーなら、主人公や登場人物に、どのようなアドバイスをするだろうか?」という目的で小説を読むというものである。
多くの小説好きは、主人公や登場人物に対して、感情移入をしながら、つまりは、みずからを作品の中に投影しながら「主観的な視点」を交えながら読書を楽しむのかもしれない。しかし、分析的に外から、限りなく「客観的な視点」で登場人物の言動を捉えた場合、そこには、感情に流されずに「本来採るべき正しい判断」というべきものが学べるのではないかと思ったのだ。言い換えれば、小説は、感情に流されない自分を作る訓練として「実用的」な読み方をすべきと発見したのだ。
『こころ』のストーリーについては、まったく古さを感じさせられない秀逸なものだった。友人を出し抜き、先回りして愛する人間と結婚してしまったために、その友人を自殺させてしまったことにより、結局は、その罪の意識におしつぶされて自らも自殺してしまうという悲劇である。
読書の最中に感じたことは、今でこそドラマや映画で、大量の恋愛ストーリーに触れることのできる現代だが、漱石の時代はそうはいかなかったはず。にもかかわらず、構成の素晴らしさや、文章のリズムの良さには、どういう学習を積んで身につけたものかと不思議な思いさえ感じさせられた。文豪と称される理由の一つを実感できた瞬間だった。
ストーリーも良かったわけであるが、内容以上に、漱石がサンプルとなる恋愛小説が少ない時代に、歴史的なこの名作を書き残せたという彼の才能の方にこそ、驚きを感じさせられた。
ざっと読み返すにあたり、カウンセラーのつもりで登場人物にアドバイスするという一種の目的をもった結果、この作品に対し、次のような捉え方をすることができた。
それは、結局のところ、男女の恋愛感情は「性衝動」に起因する問題であり、他人を死に追いやってまで成し遂げたいような恋愛感情は「精神的性病」とでもいうべき類のものである。つまり、友人を死に追いやるような判断は「性病に侵された人間ゆえの判断」だと捉えるべきものである。
そのため、もし私が、その先生にカウンセラーとしてアドバイスをするなら「友人の死は、精神的にやられていた病気の人間の言動による結果であり、幾年もの月日を苦しんできた人間を自殺に追いやるほどの責任のあるものではない」と諭すだろう。
さらに「自身で感情をコントロールできない状態とは、あたかも、他人から感情をコントロールされている状態と同じなのであり、悩む場面ではなく、むしろ怒りを覚える場面である」と理解させるだろう。感情のコントロールができないがゆえに悩んでいる状態を「第三者に脳をコントロールされている状態」だと理解できれば、とても腹立たしく、その第三者に怒りさえ覚える。すると、感情としては、喧嘩を挑む場面と同じようにメラメラとした「力」が湧いてくるはずだ。つまり、そのような「思考の方向づけ」をもつことで「前向きになれる」のだ。
悩みを「自分の心の問題」というように「自分」に向けていたのでは、その先生のように自殺に追いやられるほど、自分の心を責めてしまうものである。読書の最中、このような「心の調律法」を発見できたことは、私にとって大変大きな収穫だった。
その先生も、異性に対し恋心が芽生える前に、このような心の調律法を知っていれば、二人の人間を自殺に追いやる事は避けられたと思う。
もし仮に、その先生がこの『こころ』という物語を読んでいたとしたらどうだろう。おそらく、若い時の誤った行動には出なかったかもしれない。つまり、本を読むことで、事前に心の予行練習をし、心に免疫のようなものを作っていたなら、彼ら二人の悲劇も避けられたかもしれない。
この小説は、人間が陥りがちな葛藤の中で、同じような失敗をしないために、漱石が私たちに残した正に「こころ」のトレーニングのための作品だったのではないだろうか。

引用元:[読書感想文の書き方]
本の詳細:[こころ]

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